パグの額に深いしわがあるのは、人がそう選んで残してきたからです。自然にできた形ではありません。
鼻を短く、顔を平たくする方向で何百年も繁殖が重ねられ、そのなかで額のしわは「良いもの」として残されました。中国では、しわが漢字の「王」に見えることが縁起がよいとされた、という言い伝えもあります。
先に3行でまとめると
- しわは偶然ではなく、人が選んで残した特徴
- 鼻が短いのは、顔の骨そのものが短いから(短頭種)
- しわと短い鼻は、皮膚炎と呼吸のしにくさという代償とセット
フォーンのパグ2頭と暮らす飼い主が、しわができた経緯と、あの顔が抱えている弱点まで整理しました。
この記事のポイント
- パグの顔は2000年以上前の中国で作られ始めた。もとは今ほど平らではなかった
- 16世紀にヨーロッパへ渡り、19世紀のイギリスで現在の姿に近づいた
- 短頭種は「骨だけが短く、中身は縮んでいない」。ここが弱点の原因
- 目が大きく見えるのは眼窩が浅いため。しわは皮膚が余ってできる
- 呼吸のしにくさ・目のケガ・歯の窮屈さは、あの顔と表裏一体
- パグの目やにと目の充血:目が前に出ていることで起きるトラブル
パグの顔は古代中国で作られた
2000年以上前から記録がある
パグの祖先とされる犬は、2000年以上前の中国にさかのぼるといわれています。当時から鼻の短い小型犬が皇帝や貴族のもとで飼われていた記録が残っています。
ただし当時のパグは、今ほど鼻がつぶれてはいなかったと考えられています。現在の極端に平たい顔は、その後の長い選択繁殖の結果です。
しわが「王」の字に見えたという言い伝え
中国では、パグの額のしわが漢字の「王」に似ていることが縁起がよいとされた、という言い伝えがあります。しわの深い個体ほど珍重されたという話も伝わっています。
これが事実かどうかを確かめる手立てはありません。ただ、もし本当なら「しわが深い犬を選んで増やす」という繁殖が行われていたことになります。今のパグの顔は、その積み重ねの上にあるのかもしれません。
チベットでは仏教の僧院で飼われていたとも伝えられており、いずれにせよパグは「働く犬」ではなく、人のそばにいることが役目の犬でした。狩りも番犬もしない。ここが、多くの犬種との決定的な違いです。
ヨーロッパに渡って人気犬種になるまで
16世紀、貿易船に乗って西へ
16世紀、東インド会社の交易とともにパグはヨーロッパへ渡ります。オランダでは王家に愛され、パグが番犬役を果たして主人の命を救ったという逸話も残されています。
19世紀にはイギリスのヴィクトリア女王がパグを可愛がったことで知られ、上流階級の間で流行しました。この時期に、現在の犬種標準につながる形が固まっていきます。
品種改良される前のパグは、鼻がもう少し長かった
昔の絵を見ると、今のパグとは顔つきが少し違います。わかりやすいのが、イギリスの画家ウィリアム・ホガースが1745年に描いた自画像『画家とパグ』です。足もとに座っている愛犬のパグは、今の子より鼻先が前に出ていて、脚も長めに描かれています。
18〜19世紀の絵画や写真に残るパグは、だいたいこのくらいの顔つきです。そこから、鼻が短く丸い顔の個体が好まれて繁殖が重ねられ、今の平たい顔に近づいていったと言われています。
つまり、あの鼻ぺちゃは昔からずっと同じだったわけではなく、人が「かわいい」と感じる方向に少しずつ寄せてきた結果です。後半の「あの顔が抱えている弱点」で書く呼吸のしにくさも、この流れとつながっています。
名前の由来には諸説ある
「Pug」という名前の由来は、はっきりしていません。よく挙げられるのは次の説です。
- ラテン語の pugnus(握りこぶし)から。丸めた拳がパグの横顔に似ているため
- 当時ヨーロッパでペットとして人気だったマーモセット猿の愛称から
- 親しみを込めた呼びかけの言葉が定着したという説
どれも決め手はありません。ただ、どの説も「顔の形」か「愛玩される存在」に結びついているのが面白いところです。
なぜ鼻が短いのか──体のつくりの話
短頭種とは「顔の骨が短い犬」のこと
パグは短頭種(たんとうしゅ)に分類されます。ブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、シーズーなども同じ仲間です。
短頭種は、頭蓋骨の幅に対して顔面(マズル)の骨が極端に短くなっています。重要なのは、骨だけが短くなり、中身の軟部組織は縮んでいないという点です。
鼻の長い犬と同じだけの組織が、短い箱に詰め込まれている状態だと考えると分かりやすいと思います。この「詰まっている」ことが、後で書く弱点の原因になります。
目が大きく見えるのは、鼻が引っ込んでいるから
パグの目が大きく見えるのには理由があります。眼球そのものが特別大きいというより、顔が平らで眼窩(がんか=目のくぼみ)が浅いため、目が前に出て見えるのです。
横から見ると分かりやすく、パグの目はほぼ顔の表面に位置しています。愛らしさの正体はここにありますが、同時にケガをしやすい構造でもあります。
額のしわは何のためにあるのか
しわは、皮膚が余っているからできます。顔の骨が短くなったのに皮膚の面積はそのままなので、行き場のない皮膚がたるんで折り重なるわけです。
結果として、パグは表情が読み取りやすい犬になりました。眉のあたりを少し動かすだけでしわの寄り方が変わるため、感情の変化が目に見えます。飼い主が「今この子は困っている」と感じ取りやすいのは、この構造のおかげです。
ただし、しわの内側は汚れと湿気がたまります。うちは週2〜3回、コットンで拭いてから乾かしています。手順はパグのしわ掃除にまとめました。

しわの間はどうなっているのか
しわは見た目の話だけでは終わりません。しわの内側は、皮膚どうしが触れ合ったまま閉じている場所です。空気が通らず、汚れと皮脂がたまります。
専門家監修の資料でも、しわの間には汚れがたまりやすく、取り除かないとにおいの原因になり、皮膚病のリスクが高まるとされています。手入れの頻度の目安は毎日、少なくとも週に1回です。
パグがかかりやすい病気として、膿皮症やアレルギー性皮膚炎が挙げられているのも、この構造と無関係ではありません。
つまり「しわがかわいい」と「しわは手入れがいる」は、同じ一つの特徴の裏表です。→ パグのしわ掃除のやり方/体をかゆがるときの見分け方
動物病院で言われた、しわの間の拭き方
ゆきちがしわの間の皮膚炎で通院したとき、処方されたのはイソジンでした。薄めずにそのままティッシュに湿らせて、しわの間を拭くように言われています。
正直、意外でした。しわ専用のローションやウェットシートのようなものを想像していたからです。うちでは今もこの方法を続けています。
ただしこれは、ゆきちの症状を診たうえで獣医師が出した指示です。薬は犬の状態によって選ばれるものなので、同じことをする前に必ず診てもらってください。ここに書いているのは「うちの場合はこうだった」という一例です。
しわの深さは個体差が大きい
ここは実際に2頭飼っていて、いちばん意外だったところです。同じフォーンのオスでも、しわの入り方が違います。



そしてトラブルの出方も違いました。ゆきちはしわの間が赤くなり、皮膚炎・しわ炎で通院しています。ぶーたろうは皮膚ではなく、目やにと充血で通院しました。同じ家で、同じフードを食べていてもです。
「パグはこう」という一般論だけでは、自分の子に当てはまらないことがあります。しわの深さも、出るトラブルも、その子ごとに見るしかありません。
あの顔が抱えている弱点
ここは、パグを迎える前に知っておいてほしい部分です。
呼吸がしにくい
短い鼻に組織が詰まっているため、空気の通り道が狭くなりがちです。いびきや、興奮したときの荒い呼吸はここから来ています。かわいらしい鼻息の音は、裏を返せば空気が通りにくいサインでもあります。
とくに困るのが夏です。犬は汗をかけないので、呼吸で熱を逃がします。その呼吸が苦手なので、暑さに弱い。うちも夏はエアコンを切りません。
温度と湿度の考え方はパグの暑さ対策に書いています。
目をぶつけやすい
目が前に出ているぶん、家具の角や草にぶつけることがあります。自分の顔の毛で傷つけてしまう場合もあります。目やに・充血・しょぼしょぼさせる仕草が続くときは、様子を見すぎずに動物病院で診てもらうほうが安心です。
歯が窮屈
顎の骨が短くても、歯の本数は他の犬種と変わりません。狭いところに同じ数の歯が並ぶため、重なったり傾いたりしやすく、汚れも残りやすくなります。
うちの2頭を見ていて思うこと
ぶーたろうとゆきちは、同じフォーンのパグで、顔立ちも似ています。それでも、しわの寄り方は違います。
ぶーたろうは普段おっとりしていて、額のしわもゆるい。ところが台所で袋の音がすると、眉のあたりに一気に力が入って別の顔になります。食べ物への執着はかなり強いほうです。
ゆきちは甘えん坊で、自分が一番でないと納得しません。このときの顔が、しわの寄り方まで含めて分かりやすく不満そうで、思わず笑ってしまいます。
顔のつくりが同じでも、性格が違えば表情の出方も違う。長く一緒にいると、しわの動きで機嫌が読めるようになります。
この顔は、人が長い時間をかけて選んできた結果できたものです。迎える前に知っておきたいことはパグを飼ってはいけないと言われる8つの理由にまとめています。



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